消費税が10%になる理由
「消費税はなぜ10%に引き上げられるの??」
とお子さんに聞かれたら、どう答えますか?
消費税が引き上げられる理由、今さら聞けない大人のギモンですよね。
今回は消費税増税の理由(社会保障と税の一体改革)についてカンタン解説します!!
(「厚生労働白書を読む」シリーズの番外編です。)
今回のポイント消費税が10%になる理由(政府の説明)
・社会保障の財源が不足している
・社会保険料の引き上げだけでは対応できない
・なぜ消費税か
⇒財務省「国民全体で広く社会保障の財源を負担するため」
なお、今回は消費税引き上げの是非の話ではありません。
増税というとすぐに賛成反対の話になって、「なぜ政府は必要と言っているのか」がわからなくなるんですよね。
今回は、政府が説明する「消費税を10%にする理由」の解説です。
消費税が10%になる理由
社会保障の財源が不足している
まずはこの図表をご覧ください。
(出典:「平成29年版厚生労働白書」(厚生労働省))
この図は、社会保障を含む行政サービスと、その費用としての社会保険料や税金の流れを現した図です。金額の単位は「兆円」です。
左側に企業と家計があり、企業は家計に賃金として224兆円を支払っていることがわかります。
左から右に伸びる緑色の矢印は、企業や家計(個人)が政府に対して支払っている税金や社会保険料を表しています。全部で163兆円です。
反対に、右から左に伸びる2つの矢印は、政府から企業や家計(個人)に対して給付金やサービスとして提供される金額です。一般の行政サービスで79兆円、社会保障給付で101兆円(社会保障全体から生活保護費を抜いた額。生活保護は保険料支払いと関係なく支給されるため。)が支出されています。
図の右側は政府(国と都道府県・市町村)全体の家計簿です。これを拡大したのが下の図です。
まず収入から。総額は190兆円。そのうち税金が98兆円、社会保険料が64兆円です。
書かれていませんが、残りは国債や地方債つまり借金です。借金は誰が返すかって?国?いいえ、将来の私たちと子どもたちです。
つぎに支出。社会保障給付として101兆円が支出されています。そのうち年金が51兆円、医療が35兆円です。
しかも、この高齢化などの影響により、社会保障費は毎年約1兆円増えてます。まさにジリ貧!
ちなみにその下の社会扶助給付は生活保護費のことです。生活保護は保険料の支払いとは関係なく受給できるので、今回の計算からは外れます。
これらから、国民は支払った社会保険料よりも多くの社会保障給付を受けていることがわかります。
でも、私たち現役世代にはその実感はありませんよね?
それは当然です。支払うのは現役世代、受け取るのは主に高齢者だからです。
でもね、今の高齢者も、現役時代にはその上の世代を支えていたんですよ。それが社会保障の仕組みです。
社会保障とその負担のまとめ社会保障とその財源のまとめ
・国民が支払う社会保険料は64兆円
・国民が受け取る社会保障は101兆円⇒社会保障財源は不足している
・財源不足は税金と公債(借金)でまかなっている
・国の借金を返すのは、将来の私たちと子どもたち
社会保険料の引き上げだけでは対応できない
社会保障財源が足りないなら、①社会保障を削減又は抑制するか、②社会保険料を引き上げるか じゃないの?
なぜ③増税なの?
という疑問、ありますよね。私もそう思ってました。
実は、全部やってます。
①社会保障の削減又は抑制
①の一例は、公的年金に導入されている「マクロ経済スライド」です。これは、「物価が上がっても、年金支給額はそれほど上げないよ」という仕組みです。
今75歳の人が25歳だった50年前は、大卒初任給は34,100円でした。当然、年金の保険料も金額だけを見れば少額だったので、現在の価値に換算して支給してくれないと、生活の足しにもなりません。そこで2005年以前は物価の上昇にあわせて支給額を増やす「物価スライド」という仕組みを採用していました。
ただ、それではもう年金財政が持たないということになり、支給総額の抑制のため、マクロ経済スライドで支給額の増額を抑制する(まったく上げないわけではない)ことになりました。
これは、年金財政の延命措置ともいえる苦肉の策でしたが、公的年金は社会保障の中核なので、破綻させるわけにはいきません。
この年金制度改革に政府与党が付けたスローガンが、先日の老後2,000万円不足問題で取り上げられていた「年金100年安心プラン」だったというわけです。
もともと、「年金財政を破綻させず、100年先まで持続させる」という意味なのに、「公的年金だけで現役時代と同じように生活できる状態(昔から想定すらされていない非現実的な状態)が100年続く」という意味に超曲解され、
「年金100年安心は嘘だったのか!国家的詐欺だ!」などと言われたわけです。。さすがにひどい。
その他にも、医療費の自己負担は、1973年から1982年までは70歳以上は完全無料でしたが、1983年から入院1日300円、外来月400円になり、1997年に入院1日1,000円、外来1日500円(月4回まで)、2001年に1割負担、2008年に後期高齢者医療制度で70歳から75歳までは2割負担になるなど、段階的に社会保障は削減又は抑制されてきました。
②社会保険料の引き上げ
社会保険料は、ずっと引き上げが続いています。
社会保障費が高齢化で爆増していることを受けたものです。
総務省統計局の家計調査によれば、2人以上世帯の勤労者世帯の家計における社会保険料負担は2000年の月額48,019円から2017年の月額56,869円へと17年間で18.4%増えています。
それでも、先に述べたとおり、社会保障費をまかなうには足りていません。
③増税
社会保険料を引き上げても足りない場合、それを補うための最終手段として増税が行われる場合があります。今回がそのパターンですね。
すでに消費税が5%から8%になって数年たちましたが、今回の10%への引き上げは、社会保障費に充てられます。(一部は幼児教育・保育の無償化)
それ以外の税金は、平成のあいだ新設も廃止もありましたが、負担の総額そのものは、ほぼ横ばいでした。(総務省「家計調査」による)
よく言われる「どんどん生活が苦しくなった」のは、主に社会保険料の増額によるものだったようです。
一例として、所得税と住民税をあわせた個人所得課税については、以下の通り。
(資料:財務省ホームページ「税率・税負担等に関する資料」の「個人所得課税の税率等の推移(イメージ図)の一部を抜粋)
なぜ他の税金ではなく消費税を増税するのか
ずばり、財務省ホームページ「消費税引き上げの理由」によれば、以下の理由で消費税が選択されたようです。
今後、少子高齢化により、現役世代が急なスピードで減っていく一方で、高齢者は増えていきます。社会保険料など、現役世代の負担が既に年々高まりつつある中で、社会保障財源のために所得税や法人税の引上げを行えば、一層現役世代に負担が集中することとなります。特定の者に負担が集中せず、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、高齢化社会における社会保障の財源にふさわしいと考えられます。
また、ここ10年くらいで見ると、所得税や法人税の税収は不景気のときに減少していますが、消費税は毎年10兆円程度(注)の税収が続いており、税収が経済動向に左右されにくく安定した税と言えます。
(注)地方消費税を除く4%分
消費税には逆進性(所得にかかわらず、最低限の消費は必要なので、所得の低い人ほど、結果的に収入に占める消費税負担の割合が大きくなること)があると指摘されており、
所得税や法人税の引き上げによって社会保障をまかなうべきだという意見もありますが、それでは高齢者は全く負担が増えないことになるので、
同じ金額を増税によって調達する場合、現役世代には所得税の引き上げよりはまだ高齢者にも分担してもらえる消費税の引き上げの方がマシかもしれません。
(法人税の引き上げも、最終的には給与や雇用の減少などにより家計負担につながるものだと思いますが、このあたりはまた勉強します・・・)
社会保障と税の一体改革とは
以上見てきたように、社会保障財源がすでに不足し、今後も高齢化が進展することが確実である現状を踏まえて、消費税率を段階的に10%まで引き上げる法律(「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」)が平成24年8月に成立しました。
それに基づき、平成26年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられました。
あわせて、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」という社会保障改革の推進のための会議体を設置する法律が作られました。これに基づき、「子ども・子育て支援新制度」(幼保連携型認定こども園、児童養護施設の受け入れ拡大などいろいろ)や公的年金の受給資格取得を25年から10年に短縮(今年10月予定)など、いろいろ社会保障改革が行われています。(ここもまた勉強して解説します!)
また、消費税率の10%への引き上げは当初平成27年10月1日に予定されていましたが、平成29年4月1日まで1度目の延期。さらにその後平成31年(令和元年)10月1日まで2度目の延期を経て、今に至っています。
この「消費税率の引き上げによって財源を確保しつつ、社会保障についても持続可能なものに見直していく一連の改革」が、「社会保障と税の一体改革」なのです。
まとめ
では今回のまとめです。
消費税が10%になる理由まとめ(政府の説明)・社会保障の財源が不足しており、財源不足は高齢化で拡大している。
・社会保険料の引き上げや医療費の自己負担額の増だけでは足りていない。
・なぜ所得税や法人税ではなく、消費税なのか。
⇒財務省の説明は、
「所得税や法人税では現役世代に負担が集中するが、消費税は高齢者を含め国民全体で広く負担する。また、所得税や法人税の税収は景気に左右されるが、消費税の税収は安定しているため。」
・「社会保障と税の一体改革」とは、「消費税率の引き上げによって財源を確保しつつ、社会保障についても持続可能なものに見直していく一連の改革」のこと。